針葉樹について 一覧

伐木造材講習。

先日、林業センターに伐木造材講習に3日連続で行ってきました。
伐木とは立木を切り倒すことで、
造材はトラックなどに積む前に枝を払い、用途に合わせた長さに切ることです。
主にチェーンソーで作業を行うので、
その構造やメンテナンス、安全な使い方の講習を1日しっかりと受けます。
その後2日間で実際に木を切り倒すところまで作業講習しました。


いきなり立木は切れないので、前の講習で造材してあった木を使って、
チェーンソーの基本的な切り方を教わります。

木を切り倒す手順は、まず木を倒す方向を決め、
その方向に向かって「受け口」と呼ばれる切り込みを入れます。
パックマンの口みたいに三角形に切ります。
木はほぼ正確に受け口の方向に倒れるので、慎重に位置を決め切り込みます。
次に受け口の後ろから「追い口」と呼ばれる切り込みを入れていき、
完全に切り離さない所で止め、クサビを打ち込んで倒します。

古い切り株でも練習をして、午後はチェーンソーの刃を研ぎ直しました。

次の日、実際に立木を切り倒します。
影山が「追い口」を入れているところです。

切る人以外は切り倒す反対方向の退避区域で待機しています。

追い口にクサビを打ち込んでいきます。

写真の奥側が「受け口」で手前が「追い口」の切りあとです。
先生が指差しているところが「つる」と呼ばれる切らずに残しておく部分。
木の直径の10分の1程度の「つる」を残すことで、
木がゆっくりと正確な位置に倒れてくれて、切り倒す人の安全が確保されます。

クサビを入れ、木が「ミシッミシッ」と音を立てながら動きだし、
「ズド~~~~ン~~~ンン・・ン・・・」と深い音が森に響き渡ります。

「受け口」「追い口」「つる」の3つの構成は、
日本では1000年くらい前には既にあったとかで、
実際に切り倒して正確に木が動くのを体験すると「知恵だな~!」と感心してしまいました。

もうけっこう長いこと「木の仕事」をして来ているのだけれど、
初めて木の命をもらう瞬間を自分の手で体験できたことは貴重だなと思いました。
「ズド~~~~ン~~~ンン・・ン・・・」
この音をかすかでも響かせられるような作品を作っていけたら、せめてもと思います。

take-g

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林業体験。

先々週のことですが、林業体験講座に行ってきました。
今回は梅雨明け真夏の下草刈りということで、
午前中にカマやナタの研ぎ方を習い、午後から森に入って下草刈りです。

カンナやノミであればしょっちゅう研いでいますが、カマは初めて。
先生の研ぎ方をよく見て、やってみればけっこうちゃんと研げました。

午後は森にでて、いよいよ下草刈り。
前回座学で勉強した正しい刈り払い機の使い方を思い出しながら、
安全、確実に作業します。
この日は晴れたり雨がぱらついたりして蒸し暑く、
長袖長ズボンにヘルメット着用がキツかったです。
前々回に植えた苗木の周辺を重点的に下草刈り。
まだまだ小さい木なので、草や他の雑木に負けてしまうので手助けしてやります。
長野県の参加者ばかりということもあり、基本的には刈り払い機が使える人が多くて、
作業は順調に進んで行きます。
幼い木の周りなどは刈り払い機よりカマの方が繊細に作業ができて便利でした。
背丈程もある長いカマは初めて使いましたが、よく切れて思った以上に作業性はよかったです。
森の中では、人が植えずとも、
木もれ日があれば次の世代の木がちゃんと芽を出していました。
春に芽吹き、秋に色づき落ちた葉が、土地を肥やし次の世代を育む。
新旧世代の交代が上手く行くことが森全体の寿命を延ばし、生態系を豊かにする。
人1人の寿命はどんどん延びて行くけれど少子化が進む人の社会と、
森林飽和する森がなんとなく重なって見えてきます。
個体の寿命を延ばすことを追求しすぎると、種全体の寿命(存続)は短くすることに繋がり、
世代から世代に手渡されてきたものも失われていく。
僕らは、そしてその子供たちは、
僅かな木もれ日に手をいっぱいに伸ばし守っていくしかない。
消費税が上がるという、高齢者福祉の財源になるという。
木もれ日は老木に降り注ぎ、若木は育たない。
個の寿命を延ばすことと、種の寿命を延ばすこと、その両立が難しいとすれば、
せめて木もれ日は奪わないで欲しい。
僕たちは次の世代に手渡すために必死に両手を伸ばしている。
老木が落としてくれた積み重なる葉を糧に。

take-g

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林業作業体験講座3。

先の日曜日に林業体験の3回目がありました.

今回は「刈り払い機の取り扱い方」ということで、
次回の下草刈り作業の前に、刈り払い機の安全な扱い方の座学でした。
僕は「草刈り機」と呼んでいますけど、正確には「刈り払い機(刈払機)」というそうです。
草刈り機って草を刈るにはとっても便利なのですが、毎年事故が起きていて、
飛び石による軽傷から、隣で作業していた人に刃があたる重傷・死亡事故が絶えないとのこと。
僕も中野に住みはじめて、ホームセンターで草刈り機を買って、
説明書を一読して使いはじめたので、
もしもの事故を考えるとちょっと認識が甘かったかもしれません。
誰だか知りませんがこんなブログを発見しましたので、リンク先の写真を見てください。
いけませんねぇ、誰なんでしょうこの無防備な格好の若造は!?
長靴を履いている以外は、事故・怪我のオンパレード、
教科書的にいえば危険運転、即逮捕といったところですね。
もし、いまだに怪我をしてないとすれば、運がいいだけ、すぐ猛省すべきでしょう。
長袖長ズボンに防じん眼鏡・保護帽・耳栓・防振手袋・すね当てを着用し、
できるなら腰バンド付きで、スイッチが手元にある最新式の草刈り機に買い替えるべきです。
古いものを大切に使うのもよいことですが、命あってのことと心すべきです。
いや~私も年ですかね、つい若者には口酸っぱくなっていけませんね。
だいたいにおいて、ブログの題名が草刈り機をなめているとしか言いようがないわけで、
・・・いけません、ネットを介した小言はとまりませんね、
そろそろ若者も耳栓を着用したところでしょうか。
さてさて、ほぼ1日「刈り払い機の構造と安全な管理方法」を学び、
昼休みに体験講座1回目にやったキノコのお世話もしました。
ふせ込みという作業で、寝かして置いていた植菌した原木を間隔を取っておき直しました。
木漏れ日の下ですくすく育ってくれるといいですね。
さて、取り組んでいる針葉樹家具のモデルが完成に近づいてきました。
影山と針葉樹家具に取り組みはじめてから、
アイデア自体はどんどん溢れて山積みなのですが、
現在は実現性の高そうな5種を進めています。
中でも実現性が高そうというか、既視感があるというか、
「あえ?これ桶じゃね?」な家具がこれです。
「そう!これ桶です。」な、この家具は針葉樹の弱さを解決する、
単刀直入で、既に千年以上の実績を持つ答えの一つです。
桶は底板・側板・タガ(金属や竹でできた輪っか)の3つのパーツで出来ています。
シンプルな構造ながら繰り返し使われるほどの強度と耐久性を持ち、
プラスチックや金属の容器が登場するまで、
長らく酒や醤油・油などの液体の運搬に使用されてきました。
ポイントは側板の構造で、数枚から数十枚の短冊状の板を円筒状に並べるために、
内側に向かって狭くなるようにテーパーがついています。
これは側板を円筒状に並べるためだけでなく、
合わさった時に内側に力をかけても押し込まれない構造になっています。
また外側に開く力に対してはタガで締め付けているので、
タガが切れるか外れるかしない限りは壊れません。
この構造は結物構造と呼ばれ鎌倉時代に生まれたそうです。
ちなみに「あの人はタガが外れたようだ」という規則や束縛から外れ度をこす様の比喩は、
桶のタガから来ています。
この優れた構造を家具に出来ないかという視点で見てみます。
無垢の木でテーブルをつくると、天板(テーブル面)が反ってしまうので、
天板の裏側に木や金属で作られた反り止めを付けるか、
端バミといって天板の木繊維の方向と直行する木材のパーツを両端にはめなければなりません。
写真の子供用のテーブルの天板は桶でいう底板になっています。
桶の底板は側板の溝にはめ込んであるので、桶の構造自体が反り止めの効果を持っています。
脚部は側板に取り付けるだけで、上記に書いたと通り、
内側外側に加わる力に強くなっています。
桶の構造を利用することで、
針葉樹の弱さを克服しつつ、針葉樹の軽さを生かした家具になりました。
小椅子の方は座面のパーツができ上がって来ると、とてもかわいらしくなると思います。
こちらは1年以上前に試作して、うちの娘たちでモニターしてきました。
椅子としてだけでなく、洗面所などではステップとして重宝し、
中心に開いた穴に指を入れて持ち上げると、2才の子どもでも楽に持ち運びで来ます。
普通の椅子のような脚部の出っ張りがないので、
持ち運びの時に壁を凹ましたり、転んでも大事には至りませんでした。
2才から6才くらいの子供用を想定しているのですが、使い終わっても、
中心にあけられた穴を利用して、あるものに変身しちゃいます。
右が1年使用、同じサワラという木ですが、色に変化が見られますね。
当初、樹脂のタガも考えていたのですが、金属の方がかっこいいです。
風呂上がりにカリカリと音がすると思ったら、
新しい試作つくえでさっそくお絵描きしています。
お絵描きならA4の紙で2人までの大きさかな。
右の姉があと数日で6才、左の妹が3才と1ヶ月で、成長曲線中程の子どもです。
朝、ブログを書いていると後ろの方でカリカリと音がすると思えば、
早起きした妹の方が「私の席」にちょっこり座って、どしどし絵を描いています。
日々絵が量産されているうちではお絵描きはコピー用紙を使っていて、
やっぱりA4なら2枚まで、A3だと1人用のつくえですね。

take-g

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林業作業体験講座2。

日曜日に林業体験の2回目に参加してきました。
今回は「地拵えと苗木植栽」ということで、つまり木を植えてきました。
午前中、座学で森林の育て方の勉強をし、昼を挟んで森にでて実習です。

長野県林業総合センターの森林学習展示館は当然森に囲まれていて、
木を植える場所に移動しながら、日本の森に生えている木の特性を先生から教わります。
幹の様子や、葉の形状、木質からどんな道具や用途に使われて来たか、
実際に木に触れながら教えていただくのは新鮮でした。
立木の状態は本でしか知らなかった木の、新緑の葉の美しさ、
内側から滲み出てくるような生命力を感じることができました。
写真の幹が傷ついているのは、シカによるものだそうです。
左が角を研いだ痕で、右が樹皮を食べた痕。
森でシカなんかに会うと、可愛らしいやら珍しいやらで、
なんか得した気分になるものですが、右の写真のように樹皮を幹一周食べられてしまうと、
大きな木でも枯れてしまうそうで、長野県では「シカの食害」として大問題になっています。
県内だけでも10万頭以上生息していて、人間以外の天敵がいないので増え続けているとのこと。
県では年間2万5千頭を捕獲し、計画的にシカを減らして行くそうです。
県内の飲食店に入ると「ジビエ」料理(鹿肉料理)を出す店が増えているのは
こういう事情らしいです。
あまり食べたことはないですけどね。
前回のブログで書いたような「日本の山には木が余っている」現状を考えると、
シカだけにしかしと思うところがあります。
今のところ充分に利用できるか分からない木や森を守るために、
既にそれを利用し生きるものを殺すというのは、
シカだけにしかたないといえるものでしょうか。
森林が飽和してその利用が思うように進んでいないと考えているのは人間であって、
シカの方からしてみたら、
森林が飽和してるんだから利用して生活しているだけなんですけど、なにか?
という感じかもしれません。
『もののけ姫』のアシタカばりに「双方生きる道はないのかー!」と叫んでみますかね。
あの話しでは森と人間社会の対立なんですけど、
「シカの食害」問題は森を守ろうとする人間と動物の対立ということになります。
なんだか複雑ですが、
つまりは森や山などの自然までも人間は人間の社会であると考えてしまう訳ですね。
アシタカが問いかける人間側は製鉄をする燃料に木が必要だった訳ですから、
利用が進まない木を守るためにシカを殺す現実の現状よりは、
しかたないとも言えたのかもしれません。
とはいえ、
治水や土砂災害を防止するためにも森林の管理は大事なことという考えもあるということで、
数十年後の森のために木を守り、木を植えるのが「賢い」人間というわけですよね、きっと。
まぁ、その評価は今後僕らがいかに森を利用し、継続的に林業を営み、
森とともに生きて行く社会をつくっていくかで決まり、
孫かひ孫の世代が、あの時の先祖たちは「賢かった」と
言ってくれるかどうかなのかと思います。
さて、今回の林業体験では広葉樹のクヌギを植えました。
針葉樹の利用が思うように進まない今、
広葉樹の森と針葉樹の森をバランスよくつくっていくのがこれからの森作りだそうです。
夏には植えたクヌギを守るために、下草を刈りをする予定です。
その際にまだまだ小さいクヌギの木を草と一緒に刈ってしまわないように、
赤く塗られた棒を目印に立てておきます。
どうかうまく根付いてくれればと思います。
写真の笑顔の男はうちの工房の影山です。
植林体験でいい汗をかいて、気分爽快、すっかり山男といった感じですね。
僕らの針葉樹の家具の取り組みがうまくいったあかつきには、
今日植えた木を全て買い取ってやるぞ!などと夢想しています。
この木が家具などに使えるようになるのは50年くらいかかるでしょうか、
僕たちは80歳をこえ、よぼよぼと木を削っているかどうかですね。
木工作家は木の作品を売る時に「木とともに暮らす」なんてなことをいったりしますが、
ほんとうの意味で木とともに暮らすというのは、とても木の長い話しですね。

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針葉樹で家具を作ろうと思った。

この前の土曜、長野県では全県的に雪が降りました。
うちでは、満開になった枝垂れ梅に雪がかぶさり、とても美しく感じられました。

さて、突然ですが『森林飽和』という本があります。

東大名誉教授の太田猛彦さんの著作で、日本には木が増え過ぎているというのです。
木の仕事をしている人であれば、ある程度は知っていることではあります。
飽和というのは含みのある表現だけれども、
戦後復興と高度成長期を見据えて「国土緑化」「愛国造林」等の合い言葉とともに、
約60年前位から日本の山には盛んに植樹がされました。
そのほとんどが住宅用建材になる、杉や檜などの針葉樹です。
しかし、僕自身が作品づくりでケヤキ以外の木は輸入材を使っているように、
日本ではすぐそこにある山の木よりも、輸入材を多く利用しています。
主に家具に利用される広葉樹(メープルやウォールナット、チェリーなど)は日本の山には無いか、
あっても少量だったりするので、輸入材を使わざるをえない面はあります。
ただ木造住宅を建てるために必要な針葉樹は日本の山に豊富にあり、
60年前に植林された木が「収穫期」を迎えているにもかかわらず、
安価な輸入材に押され思うように利用が進んでいません。
昨年、武蔵野美術大学に特別講義に行ったときに、
十時教授からのお話で、
大分県で針葉樹を使った製品の開発を依頼されているから、
中川も何かデザインを考えてみないかと誘われました。
大分県の林業関係の会社や行政と先生の研究会の議事録を読んで、
衝撃的だったのが実際に山で木を切り出し管理している林業従事者の方の声でした。
間伐材など出荷できない木は山で腐らせるしかないので、
腐らせるよりは「使い捨てるような」木製品を考えてもらって、
少しでも収益に換えて、山の維持管理にあてたいとのことでした。
エコでマイ箸な一般感覚からしたら、「使い捨てる」なんて!ということでしょうが、
どうせ腐ってなくなってしまうのなら、少しでもお金に換えてから、
焼却炉でなくしてしまう方が、森林の維持管理まで含めて考えると、
マイ箸よりエコだということになるでしょう。
まぁ、とにもかくにも植林にはげんだ賢いご先祖様たちのお陰と、
同じ木なら安いにこしたことはないというお金の使い方に賢い僕たちのお陰で、
日本の山には木があまって困っているというわけです。
世界の陸地の30%が森林なのだそうですが、
日本では国土の約70%が森林で世界で3番目に森林率が高い国だとのことです。
先進国では群をぬいて高い森林率の国の一つで、
その広大な森林が保有する木材として利用できる森林蓄積の半分以上が、
ご先祖様たちが緑化せねばと木を植えた人工林が占めるそうです。
たくさん木を植えてくれてありがとうと賢いご先祖様たちに感謝するとともに、
そろそろ僕たちもほんとうに賢くなるときかなと。
枯渇しそうな地下資源の利用は程々に、
地上の余って困まるほどの資源を利用しないのは賢くない。
さらには地上の資源の方は、植林、管理をしっかりして行けば、
再生可能(たかだか60年で余るほどに)だというのですから。
というわけで針葉樹で家具を作ろうと思ったわけです。
ちょうど1年前の春、テイクジー工房には1人スタッフが加わりました。
長くなるのでまたこんど詳しく紹介しますが、
彼が初めて工房に訪れた時に話していたのが、
間伐材や工場からでる端材等を利用したもの作りがしたいとの思いでした。
僕たち木工家は日本の間伐材は針葉樹が多く、その利用が難しいことはよく知っています。
国産材の殆どを占める針葉樹(杉、松、檜)は柔らかく、
一般的に家具などに利用される広葉樹(タモ、ナラ、ブナ)は堅い材質をしています。
古い民家やお寺などの柱に爪で傷をつけたことがないでしょうか、
針葉樹の木目の柔らかい層にぎゅぎゅと爪が入っていくあの感触です。
一方広葉樹は、イチローのバットはアオダモいう広葉樹で、
何度も硬球を跳ね返す堅さと粘りを持っています。
もしイチローのバットを杉で作ったら、一球で折れるか、運良く打ち返しても、
ボールのあたった所はべっこり凹んでしまっていると思います。
針葉樹は木のおもちゃや家具など耐久性や強度が必要なものを作るのには
あまり向いていないというわけです。
ただ、針葉樹は柔らかい分軽いので、作るものによっては魅力的な材料です。
あえて針葉樹で家具を作ろうとすると、柔らかさを補うために材料が太くなり
少しやぼったい見ためになり、せっかくの軽いという魅力も失われてしまいます。
特にホゾなどの材料を組み合わせる構造部分が太く大きくなったり、複雑になり、
広葉樹で作るより手間もかかってしまたりで、
材料としては広葉樹に比べ安価な針葉樹ですが、
製品としてはあまり価格を抑えることもできません。
作り手としても、買い手としても、
どうせ作るなら(買うなら)広葉樹の家具の方がいいと判断せざるをえないかなと思います。
スタッフになった彼にはその時、それは難しいんだよねとあれこれと説明したわけです。
適材適所というように、家具は広葉樹、家は針葉樹、
木の性質を体感的に知っているからこそ、
木工家の多くがきっと僕と同じように答えると思います。
「でも、作れないわけじゃないんですよね?」
彼にそう素朴に聞かれてしまうと、なんだかできないんじゃなくて、
自分がただやりたくない言い訳を並べているだけにも感じて来てしまったわけです。
たしかに、針葉樹で家具を作ろうと試みている人達はいるし、
古道具屋なんかに行ってみれば、昔の和家具には針葉樹で作られたものもあるし、
農機具や生活道具には針葉樹で作られたものが沢山あります。
桶や樽などは、酒や油などの液体の保存、運搬に使われてたことを考えれば、
かなり酷使したって大丈夫
だし、
内容物を使い切った後の入れ物だけを運ぶことや重ねて保管することを考えると、
軽い針葉樹で作ることは理にかなっていたんだろうなと思うわけです。
和家具に見られるような、箪笥の角に黒い金具がついているものを考えてみると、
針葉樹の弱さを補い、意匠的にも美しく見せる工夫なんですね。
火事が起きると今のように消し止めることが難しかった時代には、
家財道具を運び出すことで財産を守ったわけで、
そうすると箪笥は軽くて持ち運びやすい針葉樹の方が理にかなっていたんでしょう。
適材適所という言葉をもう一度唱えてみます。
先人たちの知恵を拝借したならば、
針葉樹こそ家具に向いているともいえるのかもしれません。
ご先祖様たちが残してくれた針葉樹が山には沢山残っていて、
針葉樹で道具を作って来た知恵も沢山残してくれています。
これはもうやるしかないだろうと。
繰り返しちゃいますが、針葉樹で家具を作ろうと思ったわけです。
この一年間、針葉樹について改めて勉強し、
針葉樹でもの作りを続けている工場を見て回ったりしました。
武蔵野美術大学の大分県とのプロジェクトのデザインを考えた後、
自分の足下の長野県の林業や木材の状況を詳しく知りたくなりました。
長野県庁には信州の木振興課というのがあり、
県産材利用推進室という所に情報収集にいった時のことです。
大分県のように間伐材が余っているのだろうと、
それを手に入れるにはどうしたらいいかを聞きに行った僕らは驚きました。
「長野県には間伐材はありません」というのです。
間伐材が余らないほどに利用が進んでいるということなら、
素晴らしいことなのですが、事情はどうやらその逆のようでした。
林業では木を大きくまっすぐ育てるために、
植林した木の込み合った場所の育ちの悪い木、曲がって育った木などを伐採し、
育ちのよい木により多くの光が当たるようにし成長を促します。
これを間伐作業といいます。
間伐に対して、材料として充分に育ち市場などに送るために切り倒すことを主伐といいます。
主伐を行い、更新された土地に植林を行う、
育って来た木を間伐しさらに大きく太くして、主伐を行う。
このサイクルが林業がうまく行っている状態で、
もし材木の買い手がいないとして、主伐が行われないとすれば、当然間伐も行われません。
「言い方によりますが、全てが間伐材ともいえます」
少量の買い手しかいない長野県では、ある一定の面積を更新するほどの主伐は行われず、
数本を切り出す作業がほとんどで、
太い木であっても数本を切るというのは間伐作業と言うこともできるというのが
長野県の県産材利用推進室での見解でした。
実際に太さ何センチ以下は間伐材で、以上は主伐材という規定はないので、
細い木があえて欲しいと注文すれば、極細でも主伐材ともえるし、
どんなに太くても数本しかきらないのであれば間伐材ともえるという、
言葉の定義の問題になってしまうようです。
大分県との見解の差は、
大分は長野県に比べまだ林業が回っているということなのだと思います。
とはいえ、想像であれこれ考えていてもだめじゃないかと僕らは思い立ち、
実際の森での間伐ってどんなことなのか、森林管理ってどういうものか
自分の目で見るために長野県の林業作業体験講座に参加することにしました。
月一回の講座で植栽から枝打ち間伐、炭焼きまで、一年を通して体験して行きます。
百聞は一見にしかずという訳で、
これから針葉樹でもの作りをして行くのに貴重な経験になりそうです。
針葉樹の理解を深めるのと平行して、
現在針葉樹の家具の開発も進めています。
基本的に県内の工場や工房と協力しながら、
針葉樹ならではの魅力を持った家具ができ上がりつつありますので、どうぞご期待下さい。
とりあえず、第一回の林業作業体験講座に行ってきましたので、
写真で少しレポートします。
ここは塩尻市にある長野県林業総合センター森林学習展示館です。
講座はこの施設での座学と、周辺の森林での体験作業を行います。
ちなみに写真の左手赤茶色の樹皮がアカマツで、右手がカラマツだと教えてもらいました。
カラマツは信州が原産とされており、信州カラマツとして知られています。
午後からシイタケの原木植菌を行いました。
先生からどこに菌を植えるか指導を受けているところ。
ちなみに右の紺色の作業着がテイクジー工房スタッフの影山です。
プラの入れ物に入っているのが、シイタケ菌の種駒です。
ドリルで穴をあけた所に、トンカチではたき込んで行きます。
そういえば、何で林業体験でキノコなのかと言うと。
長野県の林業生産額は総生産額の半分をキノコが占めるそうで、
ようは額で見ると木材とキノコが半々という訳です。
キノコすげーともいえるのですが、
おそらく本来は本業の枝打ちや間伐主伐といった林業作業の合間を見て、
材木にはならないような間伐材や雑木などを利用してキノコ栽培もして来たはずが、
材木の出荷があまりに少ないために、
キノコの生産額が半分ということになってしまってる気がします。
とはいえ、どうせ腐らせる運命だった木を、キノコに換えて、
お金に換え、森林管理ができるのだからこしたことはありません。
座学で知ったのですが、シイタケは木の成分のリグニンを主な栄養源とするらしいです。
リグニンは木の構成要素のセルロースという繊維の束を接着して固めている成分ですから、
これが無くなれば木は分解しやすく腐りやすくなるということが分かります。
なるほどキノコは「木の子」だねという訳です。
倒木や枯れ木にキノコがはえることで木はくさり、栄養価の高い土になって若い木を育てる、
よくできているサイクルですね。
それを林業にも取り入れようというのは知恵だなぁと思いました。

林業体験講座修了時に自分のキノコの木がもらえるそうです。
どんなシイタケがなるのか今から楽しみです。

take-g

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