針葉樹で家具を作ろうと思った。

この前の土曜、長野県では全県的に雪が降りました。
うちでは、満開になった枝垂れ梅に雪がかぶさり、とても美しく感じられました。

さて、突然ですが『森林飽和』という本があります。

東大名誉教授の太田猛彦さんの著作で、日本には木が増え過ぎているというのです。
木の仕事をしている人であれば、ある程度は知っていることではあります。
飽和というのは含みのある表現だけれども、
戦後復興と高度成長期を見据えて「国土緑化」「愛国造林」等の合い言葉とともに、
約60年前位から日本の山には盛んに植樹がされました。
そのほとんどが住宅用建材になる、杉や檜などの針葉樹です。
しかし、僕自身が作品づくりでケヤキ以外の木は輸入材を使っているように、
日本ではすぐそこにある山の木よりも、輸入材を多く利用しています。
主に家具に利用される広葉樹(メープルやウォールナット、チェリーなど)は日本の山には無いか、
あっても少量だったりするので、輸入材を使わざるをえない面はあります。
ただ木造住宅を建てるために必要な針葉樹は日本の山に豊富にあり、
60年前に植林された木が「収穫期」を迎えているにもかかわらず、
安価な輸入材に押され思うように利用が進んでいません。
昨年、武蔵野美術大学に特別講義に行ったときに、
十時教授からのお話で、
大分県で針葉樹を使った製品の開発を依頼されているから、
中川も何かデザインを考えてみないかと誘われました。
大分県の林業関係の会社や行政と先生の研究会の議事録を読んで、
衝撃的だったのが実際に山で木を切り出し管理している林業従事者の方の声でした。
間伐材など出荷できない木は山で腐らせるしかないので、
腐らせるよりは「使い捨てるような」木製品を考えてもらって、
少しでも収益に換えて、山の維持管理にあてたいとのことでした。
エコでマイ箸な一般感覚からしたら、「使い捨てる」なんて!ということでしょうが、
どうせ腐ってなくなってしまうのなら、少しでもお金に換えてから、
焼却炉でなくしてしまう方が、森林の維持管理まで含めて考えると、
マイ箸よりエコだということになるでしょう。
まぁ、とにもかくにも植林にはげんだ賢いご先祖様たちのお陰と、
同じ木なら安いにこしたことはないというお金の使い方に賢い僕たちのお陰で、
日本の山には木があまって困っているというわけです。
世界の陸地の30%が森林なのだそうですが、
日本では国土の約70%が森林で世界で3番目に森林率が高い国だとのことです。
先進国では群をぬいて高い森林率の国の一つで、
その広大な森林が保有する木材として利用できる森林蓄積の半分以上が、
ご先祖様たちが緑化せねばと木を植えた人工林が占めるそうです。
たくさん木を植えてくれてありがとうと賢いご先祖様たちに感謝するとともに、
そろそろ僕たちもほんとうに賢くなるときかなと。
枯渇しそうな地下資源の利用は程々に、
地上の余って困まるほどの資源を利用しないのは賢くない。
さらには地上の資源の方は、植林、管理をしっかりして行けば、
再生可能(たかだか60年で余るほどに)だというのですから。
というわけで針葉樹で家具を作ろうと思ったわけです。
ちょうど1年前の春、テイクジー工房には1人スタッフが加わりました。
長くなるのでまたこんど詳しく紹介しますが、
彼が初めて工房に訪れた時に話していたのが、
間伐材や工場からでる端材等を利用したもの作りがしたいとの思いでした。
僕たち木工家は日本の間伐材は針葉樹が多く、その利用が難しいことはよく知っています。
国産材の殆どを占める針葉樹(杉、松、檜)は柔らかく、
一般的に家具などに利用される広葉樹(タモ、ナラ、ブナ)は堅い材質をしています。
古い民家やお寺などの柱に爪で傷をつけたことがないでしょうか、
針葉樹の木目の柔らかい層にぎゅぎゅと爪が入っていくあの感触です。
一方広葉樹は、イチローのバットはアオダモいう広葉樹で、
何度も硬球を跳ね返す堅さと粘りを持っています。
もしイチローのバットを杉で作ったら、一球で折れるか、運良く打ち返しても、
ボールのあたった所はべっこり凹んでしまっていると思います。
針葉樹は木のおもちゃや家具など耐久性や強度が必要なものを作るのには
あまり向いていないというわけです。
ただ、針葉樹は柔らかい分軽いので、作るものによっては魅力的な材料です。
あえて針葉樹で家具を作ろうとすると、柔らかさを補うために材料が太くなり
少しやぼったい見ためになり、せっかくの軽いという魅力も失われてしまいます。
特にホゾなどの材料を組み合わせる構造部分が太く大きくなったり、複雑になり、
広葉樹で作るより手間もかかってしまたりで、
材料としては広葉樹に比べ安価な針葉樹ですが、
製品としてはあまり価格を抑えることもできません。
作り手としても、買い手としても、
どうせ作るなら(買うなら)広葉樹の家具の方がいいと判断せざるをえないかなと思います。
スタッフになった彼にはその時、それは難しいんだよねとあれこれと説明したわけです。
適材適所というように、家具は広葉樹、家は針葉樹、
木の性質を体感的に知っているからこそ、
木工家の多くがきっと僕と同じように答えると思います。
「でも、作れないわけじゃないんですよね?」
彼にそう素朴に聞かれてしまうと、なんだかできないんじゃなくて、
自分がただやりたくない言い訳を並べているだけにも感じて来てしまったわけです。
たしかに、針葉樹で家具を作ろうと試みている人達はいるし、
古道具屋なんかに行ってみれば、昔の和家具には針葉樹で作られたものもあるし、
農機具や生活道具には針葉樹で作られたものが沢山あります。
桶や樽などは、酒や油などの液体の保存、運搬に使われてたことを考えれば、
かなり酷使したって大丈夫
だし、
内容物を使い切った後の入れ物だけを運ぶことや重ねて保管することを考えると、
軽い針葉樹で作ることは理にかなっていたんだろうなと思うわけです。
和家具に見られるような、箪笥の角に黒い金具がついているものを考えてみると、
針葉樹の弱さを補い、意匠的にも美しく見せる工夫なんですね。
火事が起きると今のように消し止めることが難しかった時代には、
家財道具を運び出すことで財産を守ったわけで、
そうすると箪笥は軽くて持ち運びやすい針葉樹の方が理にかなっていたんでしょう。
適材適所という言葉をもう一度唱えてみます。
先人たちの知恵を拝借したならば、
針葉樹こそ家具に向いているともいえるのかもしれません。
ご先祖様たちが残してくれた針葉樹が山には沢山残っていて、
針葉樹で道具を作って来た知恵も沢山残してくれています。
これはもうやるしかないだろうと。
繰り返しちゃいますが、針葉樹で家具を作ろうと思ったわけです。
この一年間、針葉樹について改めて勉強し、
針葉樹でもの作りを続けている工場を見て回ったりしました。
武蔵野美術大学の大分県とのプロジェクトのデザインを考えた後、
自分の足下の長野県の林業や木材の状況を詳しく知りたくなりました。
長野県庁には信州の木振興課というのがあり、
県産材利用推進室という所に情報収集にいった時のことです。
大分県のように間伐材が余っているのだろうと、
それを手に入れるにはどうしたらいいかを聞きに行った僕らは驚きました。
「長野県には間伐材はありません」というのです。
間伐材が余らないほどに利用が進んでいるということなら、
素晴らしいことなのですが、事情はどうやらその逆のようでした。
林業では木を大きくまっすぐ育てるために、
植林した木の込み合った場所の育ちの悪い木、曲がって育った木などを伐採し、
育ちのよい木により多くの光が当たるようにし成長を促します。
これを間伐作業といいます。
間伐に対して、材料として充分に育ち市場などに送るために切り倒すことを主伐といいます。
主伐を行い、更新された土地に植林を行う、
育って来た木を間伐しさらに大きく太くして、主伐を行う。
このサイクルが林業がうまく行っている状態で、
もし材木の買い手がいないとして、主伐が行われないとすれば、当然間伐も行われません。
「言い方によりますが、全てが間伐材ともいえます」
少量の買い手しかいない長野県では、ある一定の面積を更新するほどの主伐は行われず、
数本を切り出す作業がほとんどで、
太い木であっても数本を切るというのは間伐作業と言うこともできるというのが
長野県の県産材利用推進室での見解でした。
実際に太さ何センチ以下は間伐材で、以上は主伐材という規定はないので、
細い木があえて欲しいと注文すれば、極細でも主伐材ともえるし、
どんなに太くても数本しかきらないのであれば間伐材ともえるという、
言葉の定義の問題になってしまうようです。
大分県との見解の差は、
大分は長野県に比べまだ林業が回っているということなのだと思います。
とはいえ、想像であれこれ考えていてもだめじゃないかと僕らは思い立ち、
実際の森での間伐ってどんなことなのか、森林管理ってどういうものか
自分の目で見るために長野県の林業作業体験講座に参加することにしました。
月一回の講座で植栽から枝打ち間伐、炭焼きまで、一年を通して体験して行きます。
百聞は一見にしかずという訳で、
これから針葉樹でもの作りをして行くのに貴重な経験になりそうです。
針葉樹の理解を深めるのと平行して、
現在針葉樹の家具の開発も進めています。
基本的に県内の工場や工房と協力しながら、
針葉樹ならではの魅力を持った家具ができ上がりつつありますので、どうぞご期待下さい。
とりあえず、第一回の林業作業体験講座に行ってきましたので、
写真で少しレポートします。
ここは塩尻市にある長野県林業総合センター森林学習展示館です。
講座はこの施設での座学と、周辺の森林での体験作業を行います。
ちなみに写真の左手赤茶色の樹皮がアカマツで、右手がカラマツだと教えてもらいました。
カラマツは信州が原産とされており、信州カラマツとして知られています。
午後からシイタケの原木植菌を行いました。
先生からどこに菌を植えるか指導を受けているところ。
ちなみに右の紺色の作業着がテイクジー工房スタッフの影山です。
プラの入れ物に入っているのが、シイタケ菌の種駒です。
ドリルで穴をあけた所に、トンカチではたき込んで行きます。
そういえば、何で林業体験でキノコなのかと言うと。
長野県の林業生産額は総生産額の半分をキノコが占めるそうで、
ようは額で見ると木材とキノコが半々という訳です。
キノコすげーともいえるのですが、
おそらく本来は本業の枝打ちや間伐主伐といった林業作業の合間を見て、
材木にはならないような間伐材や雑木などを利用してキノコ栽培もして来たはずが、
材木の出荷があまりに少ないために、
キノコの生産額が半分ということになってしまってる気がします。
とはいえ、どうせ腐らせる運命だった木を、キノコに換えて、
お金に換え、森林管理ができるのだからこしたことはありません。
座学で知ったのですが、シイタケは木の成分のリグニンを主な栄養源とするらしいです。
リグニンは木の構成要素のセルロースという繊維の束を接着して固めている成分ですから、
これが無くなれば木は分解しやすく腐りやすくなるということが分かります。
なるほどキノコは「木の子」だねという訳です。
倒木や枯れ木にキノコがはえることで木はくさり、栄養価の高い土になって若い木を育てる、
よくできているサイクルですね。
それを林業にも取り入れようというのは知恵だなぁと思いました。

林業体験講座修了時に自分のキノコの木がもらえるそうです。
どんなシイタケがなるのか今から楽しみです。

take-g

コメントをどうぞ