カラマツの「学童用木製机・椅子」に思う。

今年に入って、忙しい日々があっという間に過ぎ、気づけば3月も5日です。

先日 、長野県工業技術総合センターにて行われた「針葉樹家具開発研究会」の講習会に参加して、
大変胸熱になったので報告です。

最近は寄木の作品に集中し、カラマツの家具のことは影山に任せきりでしたので、
久々に針葉樹のことを考える機会として絶好となりました。

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今回の講習の中心は長野県の多くの小中学校で使用されている
「学童用木製机・椅子」についてです。
この机と椅子は、平成元年から平成19年にかけて、県下82の小中学校に導入され、
長野県を代表する「カラマツ」という針葉樹で作られたものです。
カラマツは長野県川上村原産の針葉樹で、
寒さに強く痩せた土地でも育つので60年位前から長野県を中心に広く植林されました。
針葉樹の中では硬さがあり、木目がはっきりとしていて美しい木です。
しかし、昨年2月に毎日新聞や市民タイムスなどで、
「老朽化で児童のけが多発」「カラマツの机・椅子お別れ」との記事が掲載され、
松本市などでは一般的なスチールの家具に順次戻していくと伝えられました。

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(毎日新聞朝刊 2014年4月18日より)

そもそもの導入の経緯をまとめると、
現在日本では森林に木が増えすぎて困っているので、
地元の木で「学童用木製机・椅子」を作り、
森の循環と、子供の育つ環境を生み出したいということでした。
平成14年から17年「木の香る学校推進事業」
平成18年から19年「木の香る環境づくり推進事業」
などの補助事業も後押しして約2万セットが導入されたそうです。

資源の有効利用や地産地消など、いわゆる「エコ」な観点からも、
先進的で有意義な事業であり、
これを緒に日本における「森林飽和」の問題を解決していく道筋をつける
重要な事業であったと思います。
ですから木工関係者、とりわけ針葉樹家具を作る人たちにとって、
カラマツに彩られた教室がスチールに戻っていくのは、
ショックとしか言いようがないと思います。

問題は端的に言って「木は鉄に比べて弱い」からで、
丁寧に扱うこと、メンテナンスを行うなどの、付き合いが必要な素材だからです。
もちろんその「弱い」とは、
人が触れる素材の硬さとしては丁度よい柔らかさと硬さを持った木の魅力です。
倒しても、ぶつけても壊れないスチールの家具が当たり前となった教室で、
「木が香る」ことはありましたが「木を知る」ことは難しかったのかもしれません。

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なぜこの問題に僕と影山が動いているかというと、
僕らは3年前から「カラマツ」の学童用机と椅子を開発していたからです。
県に導入されていた学童用机と椅子が重くて掃除の時に移動しにくい、
壊れやすく、メンテナンスが面倒などの声を聞き、
これらの問題を解決できないものかと、アイデアを出し合いサンプルを製作していました。
昨年完成し方々に見せていましたがなかなか関心を引けないでいたところ、
件の新聞記事を読み「一歩遅かった・・」「いやいや今こそなのか」などと思い悩んでいました。

今回の講習会では、
今現在使われている学童用机・椅子を少しでも長持ちするようにとのメンテナンス方法の考察や、
塗装の再考など、活発な議論が行われました。
針葉樹家具の草分け的な年長者から僕らのような新人、県職員や塗料会社の方まで、
それぞれの立場、考え方で、話し合うことができました。
何より僕や影山は、針葉樹家具の先達の仕事の上に自分たちがいて、
それを引き継ぎ育てていかなくちゃいけないと感じることができました。

偶然なのか必然なのか、カラマツの家具は今年から県指定の伝統工芸品となりました。
スチールの家具に更新されていくタイミングでのこの意味を考えると、
カラマツ家具発展の旗印か、
伝統工芸品の多くがそうであるようにお墨付き無くしては継続できないものへの引導か、
今が曲がり角ではありそうです。

今現在でも「森林飽和」と言えるほどに木が増えすぎているにもかかわらず、
長野県だけでも毎年180万立方メートルの森林蓄積量が増え続けています。
それに対して毎年40万立方メートル「しか」使用できていないのが現状で、
平成に入ってからの約20年間で長野県の森林蓄積量はそれまでのほぼ倍に増えているそうです。

コストと効率を優先すれば、目の前にある森林資源よりも輸入材に頼ることになります。
少なくとも「木を知る」僕らが、もっと多くの人に木のことを伝えて
「木を知る」人を一人でも多く増やしていく必要であると改めて思いました。
木が増えるのが早いか、木を知る人が増えるのが早いか、
僕らにできることはまだまだありそうです。
もしこのことに何かをしなきゃと思っている方、少しでも興味がある方はぜひお声がけください。
一緒に考えていければと思います。

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